B型肝炎について

はじめに:
B型肝炎はC型肝炎にくらべ、自然経過が複雑で理解しにくい病気の一つです。
一方若年での発癌もあるため、決して看過してはならない病気です。
この病気に関してもっとも大切なことは、専門知識のあるかかりつけ医をみつけ定期的に受診していくことです。ウィルスを完全に排除することはむつかしいですが、ウィルス量を低めに抑え、肝炎の鎮静化の維持をしていくことが、この病気とうまく付き合っていくポイントといえます。
歴史:
1960年半ばころまで原因不明の輸血後肝炎として知られていました。
1964年、オーストラリア抗原(HBs抗原)が同定され、1972年から血液センターでHBs抗原のスクリーニングが開始され、その後新規の輸血後肝炎はなくなりました。
しかしながら出産に伴う感染(垂直感染)や小児期の針交換を行わない予防接種連続注射など輸血以外の血液を介しての感染ルートは残っていました。
1980年代、母子垂直感染や予防接種連続注射による感染ルートに対策がなされ、新規患者数は大幅に減少していきました。
自然経過:
乳幼児期に垂直感染した例で見ていきます。
1)無症候性キャリア:
乳幼児期に感染した場合、しばらくは免疫応答が起こらずウィルス量は多いにも関わらず肝炎が起きにくい状態が数年から20年以上続きます。
2)免疫応答期:
成人になると、ウィルスに対する免疫応答が活発となり活動性肝炎になります。(ただし自覚症状がないことが多いです。検診などで偶然採血をしトランスアミナーゼ(GOTやGPT)の上昇ではじめて気が付くことがあるほどです。)この状態からHBe抗原セロコンバージョン*が起こると肝炎はひとまず沈静化します。
抗原セロコンが起こらなければ、肝炎は鎮静化しない状態続くことになります。
3)非活動性キャリア:
eセロコン後、ウィルス量は減少し、トランスアミナーゼも正常化します。しかしながらこの状態から再び肝炎が活発化(再燃)することもあります。
4)寛解期:
HBs抗原セロコンバージョンが起こると臨床的にはほぼ安心な状態といえます。すべてのB型肝炎患者の自然経過でここに達するのは年1%程度といわれています。
セロコンバージョン*:
生体内で抗原(ウィルスの産生するタンパク質)が多い状態から、
抗体(生体がウイルスの侵入に対しての免疫反応で産生したたんぱく質:免疫グロブリン)が多い状態にスイッチしていくこと。
感染して最初の間は抗原(ウイルスタンパク)が多い状態ですが、免疫反応によりウィルスが排除されてくると、抗原は減少します。一方生体がウィルスに対してつくった抗体(免疫グロブリン)の量が増えてきます。すなわちウィルスの排除が進んだことを表します。
風邪やインフルエンザなど急性感染症であれば、抗原が減少し抗体が出現した時点で治癒完了となるわけですが、B型肝炎の場合、慢性持続的に感染状態が続きます。
感染初期にs抗原、e抗原が出現し、10-20年を経てまずe抗原のセロコンバージョンが起こります。その後10年以上を経てs抗原のセロコンバージョンに至ります。
何年たってもe抗原のセロコンバージョンすら起こらない場合もあります。B型慢性肝炎にとってe抗原のセロコンバージョンが起こらず、肝炎の活動性が高い状態が最も危険な状態といえます。このような場合は積極的に治療を行う必要があります
治療法:
1987年より最初の治療薬としてIFN(インターフェロン)が登場しました。
IFNによるe抗原のセロコンバージョン率は自然経過と比較し若干の有用性が示されました。2011年、ペグ-IFN(ペグインターフェロン)の長期投与法が登場し、e抗原のセロコンバージョン率はさらに向上しました。
ただIFNは、注射製剤のため毎日―週3回の通院が必要であり、副作用も必発のため限られた医療機関でのみ行われていました。(ペグ-IFNでは週1回の通院になりました。)
2000年、新しい治療薬として核酸アナログ製剤*のラミブジンが登場ました。
核酸アナログ製剤のメリットは、内服薬のため通院や注射といった負担が少ないこと、副作用がほとんどないことより多くの医療機関で処方されはじめました。
核酸アナログの登場により薬を飲み続けるのみで、肝炎から肝硬変への移行や発癌を抑制することができるようになりました。
ラミブジンに関しては耐性化(薬に効かないウィルス株が増えていくこと)が問題となり、その後アデホビル(2004年)、エンテカビル(2006年)、テノホビル(2014年)と耐性化しにくい薬が開発されています。
*核酸アナログ製剤:
ウィルスの増殖をつかさどる逆転写酵素を抑制することにより、ウィルスの増殖を抑制する薬。
治療基準:
1)慢性肝炎
(治療開始条件:HBV-DNA>4.0 log、かつALT>31)
a)初回治療:ペグーIFNが第一選択。ペグーIFN不適応症例ではエンテカビル、テノホビル
b)再治療 :前回のIFN治療の反応性によりペグ-IFNかエンテカビル、テノホビルを選択。
2)慢性肝炎肝硬変
(治療開始条件:HBV-DNA:(+))
エンテカビル、テノホビル